概要
本記事では、お菓子作りの上達につながる「卵白の特性」について理解を深めていきましょう。
この記事でわかること
- 起泡の原理
- 空気による卵白の性質変化
- 気泡安定性と卵白鮮度の関係性
- 起泡性と温度の関係性
- 起泡性と副材料の関係性
- メレンゲの種類と特徴
卵白はお菓子作りには欠かすことの出来ない特性を持った素材です。
本記事では、下記にある卵白の2つの特性について丁寧に解説していきます。理論的なお菓子作りを学び、今後の参考にしてください。
本記事で学ぶ卵白の2つの特性
- 起泡性
- 空気変性
また、成功と失敗の原因が分かるので、今後のお菓子作りにとても役立ちます。
卵白の起泡性について起泡性の原理
ボウルに入った卵白を泡立て器で撹拌すると、卵白は徐々に泡立ちはじめます。
さらに撹拌を続けると、卵白は一層空気を取り込みメレンゲ状へと変化していきます。
最初は大きく粗い気泡が出来ますが、撹拌を続けるとその泡は徐々に細かくなり、しっかりとしたツヤのある安定した気泡へと変化していきます。
これは、卵白に含まれているたんぱく質が、「起泡性」と 「空気変性」という2つの特性を合わせ持っているためです。
はじめに、卵白の「起泡性」とはどのような特性なのか見ていきましょう。
適量の「水」をボウルに入れて泡立て器で撹拌すると、水は泡立つでしょうか?
答えは、「NO」。
通常、水はどんなに激しく撹拌しても泡立つことはありません。
何故でしょうか?
それは、水には「表面張力」という分子間で互いに引き合う力が大きく働いているからです。
「表面張力」とは、液体や固体が、表面を出来るだけ小さくしようとする性質のことです。
「表面張力」の大きい水は、この働きによって泡立ちにくいというわけです。
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関連記事表面張力とは?
お菓子作りの理論を学び、一歩上達した技術習得のために、「表面張力」についての理解を深めましましょう。
それでは、その逆に「表面張力」を小さくすることが出来れば、水を泡立てることが可能なのでしょうか?
その答えは、「YES」。
「表面張力」を小さくすることが出来れば、水を泡立てることが出来ます。
実験内容について
身近にある「洗剤」を使って、実験してみましょう。
①適当な大きさのボウルに水を入れてください。
②その中に、数滴の「洗剤」を入れてください。
③洗剤の入った水を、泡立て器で撹拌してください。
すると、どうでしょうか?
先程まで泡立つことのなかった水が、数滴の洗剤を入れたことで、少しずつ泡立ちはじめるようになります。
これは、洗剤には汚れを落とす目的で、「界面活性剤」という成分が含まれているからです。
この「界面活性剤」の働きとしては、下記のようなものが挙げられます。
界面活性剤の働き
【①表面張力低下作用】
・水の分子間力を低下させる。
・衣類に水が染みこみやすくなる。
・洗剤が繊維の中まで浸透する。
【②乳化作用】
・油や汚れを水中に引き出す。
・油と水を結合させる(乳化)。
【③分散作用】
・油や汚れを水中に取り込む。
・油と汚れを衣類に再付着させない。
今回の場合は、①にある表面張力を低下させる作用が当てはまります。
水に洗剤を入れたことで、水の中にある分子間で引っ張り合う力、すなわち、「表面張力」が低下し、その結果として、水の泡立ちにつながるという仕組みです。
それでは、卵白の場合ではどうかを見ていきましょう。
卵白の泡立てにも、「表面張力」の低下を目的に何かを加える必要があるのでしょうか?
その必要性を知るためには、まず、卵白の成分を見ておく必要があります。
卵白の成分を見てみると、その約89%が水分でできています。そして、残りの約11%の固形分の内、約93%は、「たんぱく質」からなっています。
卵白の成分について
・水分 約89%
・固形分 約11%
※固形分の内、約93%が「たんぱく質」
卵白の成分の約11%を占める「たんぱく質」には、液体の「表面張力」を低下させる作用があります。
そのため、卵白は、水のように洗剤などの他の素材を利用して表面張力を低下させる必要はありません。
泡立てただけで大量の空気を取り込み、安定した気泡形性が出来るのは、卵白に含まれる「たんぱく質」がその役割を担っているというわけです。
これが、卵白の特性と「 起泡性」の仕組みです。
注意ポイント
注意すべきポイントは、泡立てすぎないことです。卵白は、適正な範囲を超えて泡立てると、たんぱく質の変性が過剰になり、離水が生じてしまうので注意してください。
また、卵白の起泡性は、組み合わせる副素材によっても左右されます。こちらについては、後ほど詳しく解説します。
卵白の起泡性について卵白の空気による性質変化
ここからは、2つ目の特性である卵白の「空気変性」について解説していきます。
なぜ、卵白の起泡性を利用して泡立てた卵白の気泡は、一定時間安定していられるのでしょうか?
それは、卵白に含まれる成分の「たんぱく質」による働きがあるからです。
卵白の「たんぱく質」には、 オボアルブミンなどの「たんぱく質」が含まれています。これらの「たんぱく質」は、空気に触れると膜構造を作る性質があります。
卵白を撹拌すると、泡立ちはじめてできた気泡は、空気に触れて膜ができます。
薄く膜状に引きのばされた「たんぱく質」は、空気に触れて気泡が安定し、その形を持続させます。
更に撹拌を続けることで、その気泡は徐々に細かくなり、泡立て器ですくうと、しっかりとした弾力のあるメレンゲ状に変化します。
その結果、泡立てた卵白はボリュームのある、しっかりとした安定状態を一定時間保つことができるのです。
この空気に触れることで性質が変化することを、卵白の 「空気変性」をと呼んでいます。
メレンゲを作る際は、この「空気変性」という特性を利用して、卵白にしっかり空気を抱き込ませることが泡立てのポイントになってきます。
それでは、よりボリュームのあるメレンゲを作るためは、卵白の泡立てを出来るだけ多く行い、空気変性させることが必要なのでしょうか?
実は、それは違います。
上記でも説明したとおり、卵白のたんぱく質は空気変性によって泡立ちやすいのですが、卵白のたんぱく質のひとつである「オボトランスフェリン」は、過剰に「空気変性」が進むと気泡の安定を悪くしてしまう性質があるからです。
この「オボトランスフェリン」は、「銅」や「鉄」などの金属と強く結合する性質があります。オボトランスフェリンが金属と結合することにより、空気変性を抑える作用があります。
したがって、卵白でメレンゲを泡立てる際に、「銅製」のボウルで泡立てることによって、空気変性を抑え、キメ細かくなめらかで、比重の軽いメレンゲを作ることが出来るのです。
また、「針金本数の多い泡立て器」などを使うことによって、より手早く、質のよいメレンゲを作ることが出来るのでぜひ参考にしてみてください。
銅製ボウル 各サイズ
銅製ボウル 21㎝~27㎝
泡立て器各種
針金本数の多い泡立て器
高機能な泡立て器
ボールが入っている泡立て器
ハンドミキサー各種
便利なハンドミキサー
ここまでに、卵白の 「起泡性」と 「空気変性」 について学んできました。重要な特性なのでしっかり覚えておきましょう。
卵白の起泡性について気泡安定性と卵白鮮度の関係性
ここからは、卵白の起泡性において、卵白の鮮度が製品性にどのように影響するのかを見ていきましょう。
卵白は、鮮度によって状態が変化する素材です。
卵を割った時に、「今日の卵(卵白)は水っぽい」あるいは「今日の卵(卵白)は弾力がある」と感じたことはありませんか?
その疑問を解決するためには、まずは、卵白の分類について詳しく知る必要があります。
卵白には、大きく分けて2種類の卵白が存在します。それは、「水様卵白」と「濃厚卵白」に分類することが出来ます。
卵白の成分について
・水様卵白
卵を割ると出てくる水っぽい卵白
・濃厚卵白
卵黄の周りにある弾力がある卵白
産みたての新鮮な卵の段階では、「水様卵白」と「濃厚卵白」の割合はほとんど変わりません。
しかしながら、産まれてから日が経つごとに「濃厚卵白」のたんぱく質は粘性を失い、徐々に水様化していき、「水様卵白」の割合が増加していきます。
水っぽく感じる卵白があるのは、このことが関係しています。
一般的に、産まれての卵を25℃で2週間保管した場合、濃厚卵白のおよそ半分が水様化すると言われています。
具体的には、「濃厚卵白」の多い新鮮な卵白は、泡立ちは悪いが安定性はよくなり、その逆に、「水様卵白」の多い鮮度の落ちた卵白は、泡立ちはよいが安定性は悪くなります。
まとめ
卵の鮮度による違いにいて理解し、用途に応じた使い分けが出来るようにしていきましょう。
【新鮮な卵】
卵白 ・・・ 濃厚卵白が多い
状態 ・・・ やや弾力がある
起泡性 ・・・ 泡立ちが良い
安定性 ・・・ 安定性が悪い
【新鮮ではない卵】
卵白 ・・・ 水様卵白が多い
状態 ・・・ やや水っぽく感じる
起泡性 ・・・ 泡立ちが悪い
安定性 ・・・ 安定性が良い
パータ・ジェノワーズを作る時に、レシピを見ると、全卵とグラニュー糖を合わせた卵液を、人肌温度(36℃程度)まで温めた上で撹拌するように記載されているのはこれが理由です。
卵液(卵白)を温めることによって、濃厚卵白を水様化させます。それにより、卵白の表面張力が小さくなることで泡立ちがよくなるといった理論的なお菓子作りです。
洋菓子店などでは、キメ細かで安定したメレンゲを作る時は、冷蔵庫から出したてのよく冷えた卵白を泡立てます。
時には、よりキメ細かくてゆるめのメレンゲを作るために、卵白を冷凍庫に入れて、卵白の一部を凍らせた状態から泡立てたり、泡立ちをよくするために長時間温かい場所に保管して、水様化を意図的にさせた状態で泡立てたりなどの工夫もしています。
こうした卵白の特性を知ることで、お菓子作りの楽しさを理論的に理解し、これまで以上に美味しいお菓子作りにつなげることが出来ます。
卵白の起泡性について起泡性と温度の関係性
先程、卵液を温めて卵白を水様化させて泡立ちをよくする話をしましたが、卵白の起泡性や安定性は、卵白の「温度」によっても変化します。
以下にまとめたので、振り返りましょう。
卵白の起泡性と安定性について
卵白の温度による特性について。
【温度が高い卵白】
起泡性 ・・・ 良好
安定性 ・・・ 劣る
キメの状態 ・・・ やや粗い
【温度が低い卵白】
起泡性 ・・・ やや劣る
安定性 ・・・ 良好
キメの状態 ・・・ 細かい
卵白の起泡性について起泡性と副材料の関係性
卵白の起泡性や安定性は、温度以外にも、副素材の組み合わせによって違います。
お菓子のレシピ本などで、シフォンケーキなどのメレンゲを主体としたお菓子を作る際に、レモン水が配合されていることがあります。
これは、単に風味付けの目的だけではなくて、安定したキメの細かいメレンゲを作ることを意図した配合となっています。
その他にも、卵白の起泡性に影響する副材料があります。一覧にまとめましたので、参考にしてください。
No. | 副材料 | 起泡性 | 安定性 | 理由 |
① | サラダ油 | × | × | 卵白の気泡を破壊する。 |
② | バター | × | × | 卵白の気泡を破壊する。 |
③ | 牛乳 | △ | △ | 油脂の表面を膜で覆われた乳化状態。 |
④ | 生クリーム | △ | △ | 油脂の表面を膜で覆われた乳化状態。 |
⑤ | 卵黄 | △ | △ | 油脂の表面を膜で覆われた乳化状態。 |
⑥ | 水 | 〇 | △ | 粘度が低下するため。 |
⑦ | 砂糖 | △ | 〇 | 粘度が高まり泡立ちはよくないが、安定化する。 |
⑧ | 乾燥卵白 | 〇 | 〇 | 粘度も安定性も向上する。 |
⑨ | レモン汁 | 〇 | 〇 | アルカリ性から中性に近づき気泡が安定化する。 |
⑩ | クレームタータ | 〇 | 〇 | アルカリ性から中性に近づき気泡が安定化する。 |
⑪ | 銅製ボウル | 〇 | 〇 | 銅イオンで気泡が安定化する。 |
③~⑤に関して、通常は、油脂が膜に包まれた乳化状態になっています。そのため、卵白の気泡を直接的に破壊することはありません。
しかしながら、強い撹拌などで膜が破れて乳化状態が崩れると、油脂がむき出し状態になり、卵白の泡立ちを阻害するようになります。
注意ポイント
卵白を泡立てる時に注意することは、使用する器具類の適切な選択です。卵白の泡立ちと安定性を阻害する油分が残っていない器具類を使用します。油分が残っている場合は、お湯と洗剤を使ってきれいに洗い流しておく必要があります。
卵白の起泡性についてメレンゲの種類と特徴
ここまでに、卵白の特性について学んできました。この卵白の特性を活かしたお菓子は数多くあります。メレンゲは、その特性を活かしたお菓子です。
メレンゲには、冷たい卵白を使って作るメレンゲと、温めた卵白を使って作るメレンゲがあります。
ここでは、3種類のメレンゲを簡単にご紹介します。
通常、よく作られる冷たい卵白を使って作るメレンゲは、「フレンチメレンゲ」と呼ばれています。
その他には、冷たい卵白に、117℃程度に温めたシロップを加えながら作る「イタリアンメレンゲ」や、ボウルに卵白と砂糖を入れて混ぜ合わせ、湯煎で50℃程度まで温めた後に撹拌をはじめる「スイスメレンゲ」があります。
下記に各メレンゲの特徴をまとめましたので、参考にしてください。
フレンチメレンゲ
- 冷たい卵白を使用する。
- 軽くてソフトな仕上がり。
- スポンジ生地などに使用する。
- 長時間の放置は離水しやすい。
イタリアンメレンゲ
- 冷たい卵白を使用する。
- 117℃程度のシロップを加えながら撹拌する。
- 適度な熱変性が生じて保形性がある。
- キメが細かい。
- 粘度があって、安定している。
- クリームやムースなどに使用する。
スイスメレンゲ
- 卵白に砂糖を加えて温めて使用する。
- 適度な熱変性が生じて保形性がある。
- キメが非常に細かい。
- 粘度があって、安定している。
- 乾燥焼きして使用する。
- ケーキの仕上げなどに使用する。
卵白の起泡性についてまとめ
本記事では、卵白の起泡性や空気変性、鮮度や温度、副素材との組み合わせによる変化などについて解説しました。
お菓子作りにおいて重要な役割を担う、卵白の特性についての理解を深め、本格的なお菓子作りを理論的に楽しみましょう。
ぜひ参考に作ってみてください。
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