現代において、伝統的なパンから流行のパンまで、実に多種多様なパンが世界中で作られています。いずれのパンを作る原材料の大部分は、『小麦粉』が使われています。
そう考えると、目的に合ったパン作りを行なうためには、主原材料となる小麦粉選びが非常に大切になります。
使用する小麦粉の性状を理解し、物性や特徴を活かしていきましょう。
各国の小麦粉特徴
日本で販売されている小麦粉の主な産地は、アメリカ・カナダ・日本・フランスの4カ国です。産地により小麦粉の風味や色相、作業性や仕上がりなどが異なります。
使用する小麦粉の蛋白質と灰分の含有量を確認するとともに、製パン性に影響を及ぼしやすい小麦の生産地特性についてもしっかり確認しておきましょう。
安定品質「アメリカ産・カナダ産」
初心者におすすめアメリカ産およびカナダ産の小麦粉は、品質が安定的です。その理由は、広大な地域で収穫された小麦を輸入することで品質が均一化され、出来上がる小麦粉も安定的になります。
輸入した小麦を買い付けた製粉会社が、独自の製法にて小麦粉を挽砕し、目的に合わせた小麦粉を製造します。
この品質安定していることにより作業性と製品性が優れ、パン作り初心者の方に最適です。
主にアメリカ産やカナダ産の小麦が使用されていて、ご家庭でも使いやすく、本格的な美味しいパンが焼ける2品をご紹介いたします。
比較的価格もお求めやすいので、気軽にパン作りを楽しめます。
風味が格別な「国内産」
慣れている方におすすめパン作りに慣れている方で、小麦の風味を活かしたパンを作りたい方は、国内産(日本)の小麦粉をおすすめします。
しかしながら、国内産ならではの注意点があります。
それは、アメリカ産やカナダ産に比べ、狭い国土で栽培された小麦を用いることから、品質的にやや不安定な場合もあります。
国内産小麦粉の特徴
多少粘りが強く、ややずっしりとしたパンに焼き上がる傾向。
そのため、アメリカ産やカナダ産のようにふっくら焼き上げるには、適正吸水率の見極めや、ミキシングの時間や速度、あるいは発酵時間の調整を行なうなど、ある程度の経験が必要になってきます。
まずは、アメリカ産やカナダ産小麦粉でパン作りに慣れて、ある程度の自信がついたら、下記で紹介する国内産小麦粉、『春よ恋』や『春よ恋ブレンド』などを使って、風味の良い格別な高級パン作りにチャレンジしてみましょう。
美食の国「フランス産」
自信がある方におすすめフランス産やドイツ産小麦粉の特徴は、アメリカ産やカナダ産と比較した場合、蛋白質含有量が少なく、一般的に製パン用として使われる小麦粉の蛋白含有量は9.5%前後です。
フランスパンのような欧風パンを現地と同様に仕上げることを目的に、欧州から輸入した小麦を原料としたフランスパン専用粉が販売されています。
フランスパンやハードトーストなどの、シンプルな配合のパンにおすすめです。
フランスでの小麦粉分類は、蛋白含有量でするのではなく、風味を左右する灰分含有量で決まります。
日本では、強力粉や中力粉、薄力粉と分類されますが、フランスではT55やT65などで分類されています。
ぜひ下記に紹介する フランス産小麦粉(一部はブレンド品) 、『ニップンのメルベイユ』や『熊本製粉のリマーニュ』を使用して、オリジナルの欧風パンを焼き上げてみてください。
上手な小麦粉の選びかた
美味しいパン作りに欠かせないものは、目的に合った『小麦粉』選び。
小麦粉は、パン作りの原材料で大部分を占めています。
まずは、上記で説明した各国の小麦粉の特徴を理解した上で、適正小麦粉を選択してください。
その次に、下記のような条件分岐を参考にして、『美味しいパン』作りを楽しみましょう。
灰分含有量で選ぶ
パンの風味に影響する灰分とは、小麦の外皮(ふすま)や胚芽部分に含まれる『ミネラル分』のこと。
小麦粉に含まれる灰分が多い場合には、小麦粉の風味が強くなり、香り高いパンに焼き上げることができます。
芳醇な香りは魅力的ですよね。
しかし、小麦粉に含まれる灰分含有量(表示では、灰分何%などと書いてあります)が増えるとともに、パンの内相がややくすんだ色になります。
また、小麦粉の種類によっては、外皮(ふすま)のごく小さい粒が混入して、『ホシ』と呼ばれる小さな茶色い粒(外皮)が目立つものもあります。
食パンなどの、内相が白くきれいな生地に焼き上げたい場合には、灰分含有量が少ないものを選ぶことがおすすめ。
日本での小麦粉等級は、この灰分含有量で決まります。
特等粉が0.3~0.35%と少なく高級食パンなどに使われて、一等粉は0.35~0.45%で食パンやフランスパンなどに使われる。
灰分含有量に関しては、下記記事(小麦粉の分類)の『等級別分類について』を参考にしてください。
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関連記事小麦粉の分類
パン作りにおける小麦粉選びは重要です。灰分含有量から加工適性を考え、良質なパン作りを楽しみましょう。
日本では、原料小麦の混合や製粉方法を工夫することにより、各製粉会社では、特徴ある小麦粉を製造販売しています。
海外事情と比較すると、非常に多種多様な性状の製パン用小麦粉として販売されていますので、ぜひ、自分に合う小麦粉を見つけて『美味しいパン作りライフ』を楽しみましょう。
小麦の風味を楽しみたい方向け
灰分値が高めのものがおすすめ小麦の風味を楽しみたい場合は、灰分値が多い小麦粉を選んでください。0.50~0.60%前後がおすすめです。灰分が多いと風味が強くなるだけではなく、栄養価も高くなります。
ただし、生地色がくすみやすくなるので色相を気にする方は気を付けましょう。
また、生地に若干の緩みを与える場合もありますので、吸水調整してください。
内相がきれいな生地を作りたい方向け
灰分値が低めのものがおすすめ内相が白くきれいな生地で、パン作りをしたい場合は、灰分値が0.30~0.45%の小麦粉をおすすめします。
スーパーに置いてある強力粉のほとんどが、灰分値0.35%~0.45%の小麦粉です。ご購入の際には、表示をしっかりと確認しましょう。
蛋白含有量で選ぶ
蛋白含有量に関しては、 下記記事(小麦粉の分類)の 『用途別分類について』を参考にしてください。
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関連記事小麦粉の分類
パン作りにおける小麦粉選びは重要です。灰分含有量から加工適性を考え、良質なパン作りを楽しみましょう。
購入時に注意すること
実は要注意です製粉会社によって製造される小麦粉ですが、製造日からのおよそ1ヶ月間が最も風味の良い状態を楽しめます。
保存期間が長くなるにつれて小麦粉の風味は薄れて、湿度と気温が高いなどの悪条件下で保存した場合は、虫やカビの発生につながります。
最近では、チャック付きの物が多く販売されていますので、保存が簡単なそちらの購入をおすすめします。
このことから、小麦粉のご購入時には、賞味期限と消費量をよく考えてから購入するようにしてください。
注意ポイント① 賞味期限で選ぶ
未開封状態時での小麦粉の賞味期限は、下記のような感じです。
薄力粉と中力粉は、約1年
強力粉は、約半年
使いきれない場合は、丁寧に密封して、湿気の少ない冷暗所で常温保管することで、ある程度の品質は保持できます。
しかしながら、上記で説明したように、製造後1ヶ月以降から徐々に品質低下がはじまります。
そして、一度開封したら、なるべく早く使い切りましょう。
注意ポイント② 消費量で選ぶ
販売されている小麦粉は、例外を除くと下記のような容量となっています。
1kg・1.5kg・2kg・5kg・10kg・25kg
1kgなどの少量購入と比較した場合、25kgは割安で購入ができます。
だからといって、使い切るまでに日数が経ちすぎると品質低下が起こります。
一度に消費する量と使用頻度を考えて、必要量を購入し、できる限り早めに使いきりましょう。
小麦粉1kgに、他の材料をの配合して製造した場合、4斤の食パンを作ることができます。
小麦粉の保管方法について
一度開封した小麦粉を、しばらく使わずパントリーで放置していたなんてこともあるのではないでしょうか?
実は、小麦粉はきちんとした方法で保管しないと、風味を損ない、虫が湧いたりカビが生えることもあります。
正しい保管方法をご紹介致しますので、心当たりのある方はこの機会に保管方法を見直してみてください。
密閉保管
小麦粉は、匂い吸着しやすい性質があります。よって、小麦粉の周りにコーヒーやカレーなどの匂いの強いものを置くのは避けてください。
その上で、一度開封した小麦粉は、下記の内容を参照にし、しっかりと密閉保管することを心掛けてください。
- チャック付きの袋に入れて保管する。
- 袋やビンなどを使用して、二重容器保管する。
直置き保管はしない
容量が大きい小麦粉は、通気性を考慮して『紙袋』で包装されています。紙袋を床に直置きにしてしまうと、通気が悪くなったり、室温と床表面の温度差により袋内結露が生じることがあります。
また、害虫(ネズミやゴキブリ)からの被害を受けることもあります。これらを回避するため、床上にすのこを敷いて、その上に、小麦粉を保管するようにしてください。
適正条件での保管
小麦粉は、風通しが良く日の当たらない場所での保管をしてください。最も良い環境は、室温20℃前後、湿度50%以下です。
上記条件と合わせて、密閉して、すのこ上に保管すれば、挽き立ての小麦の香りを活かしたパン作りをある程度長い期間楽しむことができます。
冷蔵庫での保管
室内が暑くなるので、冷蔵庫内での保管をされている方もいると思います。
正直、冷蔵庫内での保管は小麦粉の風味劣化が早くなるので、あまりおすすめができません。
その理由として、冷蔵庫から出したときに生じる温度差で、袋内結露が起こり、カビが生えやすくなります。
対策
必要なときにだけ取り出して、計量し終えたら、すぐに冷蔵庫内に戻すことを心掛けてください。
また、冷蔵庫内は匂いの強い食材が多くあると思います。上記でも解説しましたが、小麦粉は匂い吸着をしやすいです。
万一、冷蔵庫内で保管するのであれば、しっかりと密閉して、香り移りを避けてください。
下記のような、『真空保存容器』を使用することをおすすめします。
まとめ
パン作りに使用する原材料で中心となる小麦粉について、色々な観点から解説しました。小麦の産地や、蛋白質や灰分の含有量により、焼き上がったパンの品質が大きく異なります。
まずは、『どんなパンを作りたいのか』を明確にして、最良最適な小麦粉選びを心掛けてください。
失敗と成功の経験を繰り返し、作り手も食べる人も笑顔になれる、パン作りを楽しみましょう。
今回は、以上です。
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